つくコム通信vol.10(弁護士ドラマがもっと面白くなるシリーズ③)
証人尋問における異議事由
前回は、民事裁判の証人尋問において「異議あり!」と言われてしまう6つの禁止事項について説明しました。
今回は、その6つの禁止事項(民事訴訟規則第115条)について、具体的に解説してみたいと思います。
1証人を侮辱し、又は困惑させる質問
意外に思われるかもしれませんが、これを理由に異議を出すことになる場面に結構な頻度で遭遇します。
思うような証言が得られなかったり、証言をはぐらかされたりすることで質問者(弁護士)もイライラしてきて侮辱的な発言をしてしまう場合があるようです。
あるいは、高圧的な態度を敢えてとることで有利な証言を得てしまおうという不適切な目的をもって行う場合もあるかもしれません。
このような尋問で得られた回答は外圧的に歪められた証言ですので、かかる尋問が許されるはずはありません。
不当な尋問により証人が委縮してしまっていたり、圧倒されている様子であればすぐに異議を出して助け舟を出します。
ドラマの中でも少々やりすぎの弁護士が登場しているのを何度か見たことがあります。そのようなシーンでは、つい「証人を侮辱し困惑させる質問です!」と異議を出したくなってしまいます。
2誘導尋問
異議を出される1番多いパターンが、この誘導尋問ではないでしょうか。
誘導尋問とは、「質問の中に回答を用意してある尋問の方法」のことです。
―具体例―
誘導尋問に当たってしまう質問の仕方
「あなたはAさんに1000万円貸しましたよね?」
この質問の仕方では「Aさんに1000万円貸した」という回答が全部盛り込まれてしまっていますので、違法な誘導尋問ということになります。
誘導尋問ではない正しい質問の仕方
「あなたはAさんにいくら貸したのですか」
これならば「1000万円貸しました」という証言(回答)が有力な証拠となり得ます。
要するに、質問に対して「はい」か「いいえ」だけで回答できてしまう場合が誘導尋問ということになります。
弁護士であっても、一切誘導をせずに証人尋問を完遂するというのはなかなかに大変なことです。特に、有利な証言を引き出したいという思いが強ければ強いほど、つい誘導尋問に走ってしまうものなのです。
なお、争点に関する尋問を始める前の前提問題の確認ということであれば、「前提問題なので時間の関係上誘導させてもらいます」として、一定の誘導尋問を行っても許容される場合があります。
3既にした質問と重複する質問
有利な証言を得られないからといって、何回も同じ質問をしても時間の無駄です。
攻め方を変えるなど、臨機応変な対応をしなければ、同じ回答を繰り返されるだけです。そうなると、かえって不利な証言の信用度が増していくだけで、逆効果です。
どうしても有利な証言をしてもらえない場合、引き際も大切です。
4争点に関係のない質問
この異議は結構裁判官を悩ませるでしょう。
一見すると関係がない質問にみえても、あとに続く質問の内容によっては関係性が出てくる場合があるからです。
一方、明らかに関係のない質問をしてくる場合もあります。
たとえば、民事裁判の証人に対して「あなたの犯罪歴を述べてください」などという質問は、争点に関係がない質問と扱われることでしょう。
前科があるので証言の信用性がないということを主張したいのかもしれませんが、それは偏見に過ぎません。そのような争点と関連性のない質問は控えなければなりません。
5意見の陳述を求める質問・6証人が直接経験しなかった事実についての陳述を求める質問
証人尋問の手続きは、証人が経験した事実を述べてもらう場です。証人の推測や想像を語ってもらっても意味がないのです。
次回は、「異議あり!」が認められた場合、その結果どうなるかについて解説してみたいと思います。
平成25年8月8日
弁護士 福嶋正洋(茨城・つくばの法律相談は、法律事務所つくばコムへお気軽にどうぞ。)