つくコム通信vol.21~手付金のあれこれ~
皆さんこんにちは。今回のつくコム通信は、~手付け金のあれこれ~について解説します。
手付金(テツケキン)という言葉を聞いたことのある方は多いと思いますが、皆様どのようなイメージをお持ちですか。
物を買うときに予約する意味で代金の一部を支払う、といった理解をされている方が多いのではないでしょうか。
実はこの手付金、民法でちゃんと規定されている法律用語なのです。ですから手付金を支払うことの法的意味やルールについては民法上一定のルールが定められているのです。
民法557条は、「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約を解除することができる」と定めています。
手付金の種類は3つあるといわれており、1契約の成立を証明するための手付(証約手付)2手付の交付者が債務を履行しない場合の違約罰としての手付(違約手付)3契約の解除権を留保するしておくための手付(解約手付)があります。
上記民法557条は3解約手付を規定しているものといえます。当事者間で手付金の種類を定めていなかったときはその手付は解約手付とみなされることになります。
解約手付の交付が為された場合、その手付を交付したものが契約を解除したいときには(残代金の支払い義務を消滅させたい)、交付した手付金の返還を放棄して契約を解除することの意思表示をすれば契約関係(権利義務関係)から解放されることができます。逆に、手付の交付を受けた方も(売主)、もっと高く買ってくれる人物が現れるなどして今ある契約関係から解放されたければ、交付を受けた手付金の倍額を支払って契約解除の意思表示をすれば契約関係から解放されることができるのです。
このように手付金の放棄(あるいは倍額の支払い)によって契約を解除できるのは、相手方が「契約の履行に着手するまでの期間」中であることが必要です(民法557条)。例えば、買主側が残代金を用意したうえで売主に残代金支払いの意思を告げ、あわせて売主に履行の請求をするというような積極的な行動があったときには「履行の着手」があったといえますので、以降はもはや手付金の倍返しによっても契約を一方的に解除することはできないことになります。
「履行の着手」があった後に契約を反故にしますと、債務不履行責任を負わされることになるので要注意です。
ところで、日常の取引では、契約の際に代金の一部支払いをするものの、その支払いが手付金としての支払いかどうか明確にされないままであることも多くあります。
そのような支払いを果たして手付金の支払いと評価すべきかどうかは問題です。たとえば、取引金額に比べて極めて少額な金銭の授受があったような場合、これを全て手付金と取り扱うとなれば、売主はその契約に拘束されることとなりますので、売主の自由な取引を阻害する場合があり妥当ではありません。このような場合には申込証拠金として取り扱うことにより未だ契約は完了していないみなす必要があるケースも想定されます。
逆に、売買代金のほぼ全部を支払っているのにこれを手付金とするとなれば、解約手付のルールに従い契約関係の解消が可能ということになってしまいます。一方の義務履行がほぼ完了しているにもかかわらず他方が一方的に契約を解消できるというのも妥当な結論ではありませんので、このような場合は手付金ではなく売買代金の支払いと取り扱うべきケースも想定されます。
以上のように、売買契約の際に支払われる一部金の法的性質はその評価が分かれるところです。
皆様もお買い物等で代金の一部を支払う場合、思わぬトラブルを避けるためにも、それは手付金なのかどうか、手付金であるとしたらそれは、解約手付なのか違約手付けなのか、その意味を明確にしておく必要がありそうですね。
平成27年4月3日
弁護士 福嶋正洋(茨城・つくばの法律相談は、法律事務所つくばコムへお気軽にどうぞ)