つくコム通信vol.22~契約関係の存続・解消と取引の安全~
契約社会においては、一度締結した契約の内容は守られなければなりません。
有効に成立した契約をいつでも反故にすることができるというのでは、取引の安全をはかることができず、社会生活に混乱をきたしてしまいます。
もっとも、いつ如何なる場合であっても、契約が絶対のもので拘束されるとなれば、これもまた、取引社会における弱者の救済がはかれない等、不都合が生じます。
そこで、本日は契約関係を解消することができる場合について、お話したいと思います。
意思表示の瑕疵
契約関係は双方の意思の合致によって成立するものです。そのため、その「意思」に問題があった場合には契約関係を解消し得ることが民法において定められています。
すなわち、意思表示が「錯誤」に基づいて為された場合、「詐欺」によって意思表示をさせられた場合、その気もないのに意思表示をしてしまった場合(「心裡留保」)、相手方と通謀して虚偽の意思表示を合致させたような場合(「虚偽表示」)には、その契約は無効、あるいは取り消すことができる旨定められているのです(民法第93条~第96条)。
解除
また、上記のような意思表示の瑕疵がなくいったん契約が有効に成立したとしても、例えば契約当事者の一方が契約で定められた義務を履行しないというような場合はどうでしょうか。契約とは双方に義務が生じるものですから、一方が義務を履行しないからといって、ただちに他方の義務が消滅するというものではありません。例えば、アパートの賃貸借契約を想定してみましょう。大家さんは賃貸借契約の成立によって、そのアパートの部屋を貸すという義務が生じます。一方、借主はその対価として家賃を支払う義務があります。この点、家賃の滞納(借主の義務違反)が発生した場合、自動的に貸す側の義務が消滅するということにはならないのです。この場合、大家さんの方で対策をとらなければ家賃はもらえないのに貸し続けなければならないという事態が発生しかねません。契約がある以上、このような問題が生じた場合にまで当事者を絶対的に拘束するというのでは、不公平ですね。
そこで、一方の義務違反(債務不履行)があった場合には、その契約関係を解除するという方法が民法上でも認められています。
契約の解除とは、契約が有効に成立した後に、契約を締結した当事者の一方からの申出によって、契約関係をさかのぼって解消することをいいます。解除することにより、契約は当初から存在しなかったことになるため、履行されていない債務は履行の必要がなくなり、すでに履行がなされている場合には、受領したものを返還するなどして契約前の状態に戻すことになります(原状回復)。
このように、契約の解除は当事者の一方の意思表示によって、すでに成立した契約関係をさかのぼって解消してしまう制度なので、一定の理由がある場合にかぎって認められます。
解除の原因
契約一般について民法が定める解除原因は、債務不履行です。
債務不履行には、民法上1履行遅滞2履行不能3不完全履行の3つの形態が規定されていますが、いずれも、債務の本旨にしたがった履行がなされなかったことについて一方に責任(故意・過失)がある場合、債務不履行の責任(解除や損害賠償義務)が発生することになります。
このように、契約関係は原則として当事者をその内容に従って拘束するものではありますが、公平性・社会的相当性の観点から、その契約関係から離脱する方法もまた定められているのです。
なお、契約関係からの離脱という点では、取引社会における弱者である消費者を守るためのクーリング・オフなど、特別な制度が定められている場合もあります。
平成27年7月2日
弁護士 福嶋正洋(茨城・つくばの法律相談は、法律事務所つくばコムへお気軽にどうぞ)