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つくコム通信vol.29 弁護士による成年後見制度活用の手引き(市民後見人制度・医療同意権の問題)

皆さんこんにちは。つくコム通信は、つくばの弁護士福嶋正洋が不定期に更新している法律情報コラムです。

今回のつくコム通信のテーマは「成年後見制度の活用の手引 其の4」です。

成年後見制度は、制度としては先進のドイツなどと比べてもひけをとらないよくできたものだと評価されていますけれども、もちろん今後の問題として課されている課題もあります。

そこで、本コラムでは、成年後見制度の現状と課題について解説いたします。

課題1 担い手不足

成年後見制度の利用は年々、増加傾向にありまして、家庭裁判所の方でも、成年後見の申立て、監督業務に今後も対応し切れるのだろうかと、大変に懸念している状況です。

家庭裁判所だけでなく、実際に後見人となる者の担い手不足というのも深刻な問題です。

後見人の担い手として、親族や専門職以外の選択肢がないとなると、求められる後見業務に合った多様な後見人の受け皿が不足してしまうという問題があります。

そのため、後見人による支援が必要であるにもかかわらず、適切な後見人を得ることができない人が少なくありません。

市民後見人の制度

そこで、成年後見制度の趣旨、内容を理解して、後見業務に熱意をもった市民を対象に、市民後見人を養成するという行政機関の事業が開始されております。

このように、後見人となる者の受け皿が不足するという事態に備えて新たに構築されている制度が市民後見人の制度です。

では、市民後見人とは具体的にどういう人のことをいうのかといいますと、親族でも専門職(弁護士や司法書士等)でもない、いわば第三の後見人でありまして、社会貢献型後見人とも呼ばれているものです。

本来、成年後見制度を利用することが必要でありながら、適切な後見人を得られないでいる方のために、社会貢献、ボランティア精神に基づいて、後見人として重要な職務を全うするために必要な知識、技量を身に付けた上で、新たに後見人候補者となっていただく方のこと、これが市民後見人というわけでして、一般の市民の方が研修を受けて成年後見人となって地域の高齢者を支えるという新しい考え方に基づく仕組みです。

市民後見人となるためには、各自治体等で定める所定の市民後見人養成講座を受講することになります。この講座では、福祉や法律、後見実務に関する講習を受けることになりますが、講座を修了したもののうち、適性のある方に市民後見人を依頼するという流れになります。

ただし、市民後見人を推薦することができるケースというのはある程度限られておりまして①資産収入が多額でなく財産管理が容易であること②身上監護が困難でないこと③親族間でトラブルがないことという条件にあてはまるものが対象となります。

一般には後見人の監督は家庭裁判所が行うものとされていますが、市民後見人の場合、間違いが起きないように社会福祉協議会が後見監督人に選任されることが多いでしょう。

市民後見人の制度には、専門知識を習得してもらうための制度の確立、市民後見人を監督していく体制や不正の防止策の確立といった点に課題はありますが、後見制度の利用が増加する一方、将来的には専門職後見人の成り手が足りなくなることが予想されておりますので、今後、市民後見制度は1つ要となる制度ではないかと思われます。

ただ、現段階では、まだまだ利用が浸透していない、これからの制度といえます。

無縁社会への対応

無縁社会、独居の高齢者に関するニュースがよく流れている昨今において、親族との関わりが薄く、地域の中でも孤立して生活しているような認知症の高齢者は少なくありませんので、このような人をいかに早く見つけて、成年後見制度につなげるかという点についても、行政機関が今後も引き続き検討していくべき課題といえるでしょう。市町村長による後見申立て手続きの活用を拡大充実させることは一つの助けになると思います。

医療同意に関する問題

ご本人に病気の治療や予防が必要となった場合、医療・診療契約の締結は成年後見人の権限に含まれますから、後見人としては適切な治療に関する契約を医療機関との間で締結することになります。

しかしながら、医療行為というのは、ある意味では身体に対する侵襲行為、これを医的侵襲といいますが、そういった側面もないわけではありません。ですから医療行為を受けるに際しては病院から医療行為について同意を求められることが多くあります。病院側としても必要な手続きです。

本人に判断能力があれば、医療同意をして治療を受けるかどうかは本人が判断することになりますけれども、判断能力が低下しているために後見人がついているような場合には、本人は適切な判断ができません。

そうすると、病院としては後見人に対して医療同意をするよう求めてくることがあります

もっとも、医療行為を受けること自体についての同意は身体の苦痛や危険を受けることに対する同意という性質からして、成年後見人に同意権はないとされています。

仮に後見人が同意したとしても、それは法律的には意味のない行為ということになってしまいます。

そうはいっても、本人の判断能力が低下し、自分が受けるべき医療についての理解ができないとき、誰が本人に代わってインフォームドコンセントを行うのかというのが問題です。

医療同意問題の現状

実際には、本人の利益を守ってくれる身近な親族がいる場合はその親族が医療の同意を行っています。

親族が後見人をされている場合は、本人と生活上近い関係にあって本人の意思を

推定できるという前提がありますから、親族の立場としての医療同意を行うことはもちろん可能です。

しかしながら、そのような親族がいない場合は、多くの後見人が悩みながら、その場その場で医療関係者と話し合いつつ、妥当な方向を模索して切り抜けているのが現実です。

同意が得られないために医療を必要とする者が医療を受けられないといった事態は放置されるべきではなく、医療の現場においても混乱を来す可能性があります。

この点については一刻も早く、法律による整備がされることが必要だと思います。

なお、医療上の緊急性がある場合は、同意を得ていなくとも医療行為をすることはできます。生命・身体に緊急の事態が生じているような場合は、緊急避難の法理によって同意なくとも医療行為をすることができるということになっていますし、それをしなければならないでしょう。

医療同意の問題があらわれてくるのは、例えば、がんの治療方針とか、胃潰瘍・ヘルニアの手術等、場合によってはインフルエンザの注射なんかでも問題となるということです。

まとめ

これまで、全4回に渡って、成年後見制度の内容、活用方法、制度の課題等について解説をしてまいりました。

平成12年に成年後見制度がはじまって以来、17年もの月日が流れようとしています。今では、成年後見制度以外にも、家族信託の活用等、新たな法制度の整備も進んでいます。

皆さまにおかれては、自分らしい老後を暮らすために何をしておくべきかをお考えいただき、成年後見制度を正しく理解して、これを最大限活用していただきたいと思います。

平成29年6月6日

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