年俸1700万円の医師に残業代は発生するのか。
医師、歯科医師、獣医師などであっても雇用契約を結び雇用されている者である以上、一般の労働者と同様に残業代請求権があるとするのが原則です。過去の判決でも、奈良地方裁判所平成21年4月22日判決など、医師の残業代請求(当直などにかかる未払い割増賃金の請求)が認容された裁判例があります。
残業代は年俸に含まれていると判断した判決が最高裁で見直される見通しか。
一方、平成23年に神奈川の医師が未払いの残業代等を求めて訴訟を提起した件で、第一審判決は、深夜手当などの算定方法が誤っているとして約56万円の未払い賃金のみを認め、他の残業代請求については、年俸に含まれるとして原告医師の請求を棄却し、第二審判決もこの判断を支持したのです。
すなわち第一審判決(横浜地裁平成27年4月)及び第二審判決(東京高裁平成27年10月)は、本件医師の年俸が高額であること、医師の仕事は労働時間に応じた賃金には本来なじまないことなどからして、残業代は年俸に含まれているとするのが相当と判断したのです。
このような判断が下された背景には、本件医師に関し年俸以外の残業代が全く支払われていなかった事案でない点が挙げられるのではないでしょうか。本件医師が勤務していた病院では、「勤務日の21時以降、翌日の8時30分までの間、及び休日に発生する緊急業務にようした時間」については残業代が支払われていたのですが、これ以外(所定労働時間の終業時間である17時30分から21時までの時間など)の労働に対する残業代が支給されていなかったようです。
このように、本件第一審及び第二審は、医師の高額な年俸、人の命を預かるという医師の仕事の特殊性、一部残業代が支払われてきたという実態を殊更に重視したのものではないかと思われます。
しかしながら、このような特殊事情があるとしても、一方で、医師も労働基準法の適用を受ける労働者であるという法律の形式からすれば、労働基準法の定める法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働に対し等しく残業代請求権を認めるべきではないでしょうか。
平成29年6月9日、この裁判について最高裁で弁論が開かれました。
医師側の弁護士は、医師の過重労働防止のためにも労働者としての権利保護の必要がある旨の弁論を行い、病院側の弁護士は高額の年俸で相当な裁量がある医師の場合、労働者として手厚く保護する必要はない旨の弁論が行われたようです。
最高裁で弁論が開かれたということは原審判決が見直される可能性が高いということを意味します。
いずれにしても、最高裁の示す判決が注目されます。判決期日は平成29年7月7日とされています。
平成29年6月12日